広島高等裁判所 昭和26年(う)778号 判決
判決理由〔抄録〕
よって訴訟記録を精査して案ずるに本件事故現場附近は相当の広場であり、時に子供の遊び場となることが認められる。被告人は当時自動車の方向転換のため後退運転を開始したのであるが、運転助手がいなかったから、自ら運転台の横から後方を見て人の気配なきことを確めたというのである。一般に業務上過失事案は結果犯といわれるごとく、いかに大きな不注意があっても、事故の発生さえ見なかったなら、その不注意はとがめられない。しかも事故が少いことからそのとがめられない不注意が繰り返され、それが通常のことのように思われるに至ることも尠しとしないのである。かかる傾向は高速度交通が要請せられる今日憂うべきことといわねばならない。凡そ自動車運転者たる者が単身自動車を後退運転するにあたり、その周辺に人影を認めない限り単に車の両横から後方を見るだけで後方確認の注意義務を全うしたといえるであろうか原審第一回公判調書の記載によれば被告人自身も後部の中心部一米位の間隔は見えなかったと供述している。この一米位の間隔を確認しないことを「社会通念上通常のことに属し」といえるであろうか。飜って思うに自動車運転者はその業務を行うにあたり、車体並びに諸機械を精査し、運転上の故障を予防すべき義務を有することである。若し本件において被告人が発車の際この車体検査を行っていたとせば、併せて被害者山下光信を認めていた筈である。たとえ自動車周辺に人影が認められないにしても、なお車体後部の確認を要求することは、発車前に車体検査の義務があることからしても、敢て酷に失するとはいえない。